実際の市長選と同じ日程で投票日を設定し、リアリティのある参加機会をつくった。
候補者インタビュー、ワークショップ、投票、開票までを一連の学びの機会となるよう取り組んだ。
先行地域が公開していたノウハウと相互扶助の仕組みが、壱岐での立ち上げを後押しした。
壱岐市自治基本条例第8条には、子どもがまちづくりに参加する権利を有することが明記されています。一方で、実際に子どもが候補者の考えに触れ、自分で考え、選び、地域の意思決定を自分ごととして捉える機会は限られていました。
「いきこども選挙」は、その権利を理念のまま置かず、地域の実践として具体化するために企画されました。選挙を単なる学習対象ではなく、参加の入口として設計したことが、このプロジェクトの出発点です。
加えて、先行事例としての「ちがさきこども選挙」と、そこから立ち上がった全国こども選挙実行委員会の存在が、いきこども選挙の実現に大きく寄与しました。実施ノウハウや制作物、ツール類が積極的に公開されていたことで、壱岐でもゼロから手探りで始めるのではなく、先人の知見を引き継ぎながら地域に合わせて設計することができました。
候補者に触れ、自分で比較し、投票し、結果を受け止める経験があれば、子どもは地域や政治との関わりを受け身ではなく主体的に捉え始めるのではないか。この仮説をもとに、投票だけでなく「聞く」「考える」「選ぶ」「届ける」までを一連の体験として組み立てました。
準備は2023年10月から開始し、教育委員会、選挙管理委員会、学校関係者、全国の先行事例に学びながら設計を進めました。とくに長崎県選挙委員会、壱岐市選挙委員会とは企画段階から繰り返し調整を重ね、公職選挙法との関係や実施方法について確認しながら進めています。実際の壱岐市長選挙と同じ2024年4月14日を投票日に設定し、候補者インタビュー動画の制作、こども選挙委員のワークショップ、投票所運営の準備を段階的に実施しました。
運営にあたっては、公職選挙法で禁止される「人気投票」に当たらないよう配慮し、模擬選挙であるこども選挙の結果公表は実際の選挙結果の発表後に行う設計としました。また、同法で禁じられているこどもの選挙運動に抵触しないよう、活動の進め方についてもこどもたちと十分に話し合いながら慎重に運営しました。
運営体制は、実行委員4名、こども選挙委員18名、小学生から高校生までの参加者、大人サポーター約20名で構成されました。過去最多となる4名の立候補者全員からインタビュー動画の制作に協力いただけたことも、大きな成果です。また、島内には期日前投票所を2か所、当日の投票所を5か所設置し、離島ならではの課題に対応した実務設計として形にしています。
全国こども選挙実行委員会が掲げる「オープンソース」「自律分散型チーム」「相互扶助ネットワーク」という方針も、実装面で大きな支えになりました。ノウハウや制作物、仕組みを開き、各地域が主体的に運営しながら、困ったときには助けを求め合える前提があったからこそ、壱岐でも現地チーム主導で立ち上げることができました。
参考: 全国こども選挙実行委員会の方針
実際の特設サイト: いきこども選挙
いきこども選挙は、全国で7番目のこども選挙として実施されました。離島で初、また九州内でも初の取り組みとなりました。壱岐市教育委員会の後援と市内2つの高校の協力により、壱岐市内の全ての小・中・高等学校の生徒2,522名に投票引換券を配布することができました。これは選挙の実際の(18歳以上の)有権者数20,197人の約1/8に相当します。
また、候補者へのインタビュー、投票所運営、開票までを通じて、子どもが地域の意思決定プロセスに具体的に触れる場をつくることができました。教育、地域、選挙運営が分断されたままでは成立しない取り組みを、協働の枠組みとして成立させられた点にも意味があります。
一方で、公職選挙法との距離感、学校現場に負担をかけない告知方法、市民への周知やサポーター募集、日程調整、投票引換券の配布など、制度と運営の両面で課題も明確になりました。期日前投票や投票率目標についても、十分な到達には至っていません。(目標投票率20%に対し、実際は13.3%)また、通信制の高校に通う生徒については、その一部にしか投票引換券を配布することができませんでした。
このプロジェクトは、こどもたちだけでなく、関わった大人にとっても民主主義や政治との関わり方を考え直す機会になりました。限られた選挙期間のなかで候補者から提案された政策を比較し、判断することにはどうしても限界があります。だからこそ、選挙の時だけ関心を向けるのではなく、日常的に地域の課題や将来像について対話し、論点を育てていく場が必要だという認識が強まりました。
この学びは、その後の「壱岐オープンダイアログ」へとつながっていきます。選挙という一時点の判断に委ねるだけでなく、立場の異なる人たちが事実や経験を持ち寄り、地域の未来について継続的に話し合える土台をどうつくるか。いきこども選挙は、その必要性を具体的に示した実践でもありました。
いきこども選挙で見えてきたのは、選挙という機会そのものの重要性と同時に、選挙の前後を含めて地域で対話を重ねる基盤の必要性でした。今後は、こどもたちの参加機会をどう継続的にひらいていくかに加え、多様な立場の人が地域の課題や未来像を日常的に持ち寄れる場をどう育てていくかが重要になります。
IKILABとしては、いきこども選挙を単発の実践で終わらせず、「壱岐オープンダイアログ」のような継続的な対話の場とも接続しながら、地域で参加と合意形成の土台を育てる仕組みへと発展させていきたいと考えています。
2023.1先行事例への問い合わせを開始。実施可能性の調査と企画の立ち上げ。
2023.11 - 2024.01教育委員会、選挙管理委員会、学校関係者への説明と協力依頼を進行。
2024.02 - 2024.03公開ワークショップ、高校生向け説明会、候補者インタビュー設計、投票所準備を実施。
2024.04.10候補者の回答動画を公開。
2024.04.14いきこども選挙の投票日。期日前2か所、当日5か所の投票所を島内に開設。
2024.04.21第5回ワークショップと開票を実施。結果と学びを整理。
地域での実践を、単発のイベントで終わらせず、検証と運用まで見据えて進めたい方はご相談ください。